2007年 06月 21日
価値観ギャップの戦い |
金曜の夜中から、地元の友達が服を買う目的で泊りに来た。一人で、しかも夜中に着くようなスケジュールで東京に来るのは初めてという彼は、随分不安な様子であって、それを品川で迎え入れた。
時間は11時50分。
帰省の度に見ている顔なので、特に陽気になるでもなく、極々普通に合流する姿を見て、彼は言う。
「なんだ、そのテンションの低さは!」
適当にあしらって、終電一つ前の大船行きの電車に乗る。友人は痛みを伴うような満員電車は人生初で、乗り込む前から先程の威勢はまるでなし。
乗車したものの、離れ離れになること止むを得ず。降りる駅の名前は伝えてあるし、仕方がないので、いないものと考えて、メールを打って十分弱。そして下車。
友人は開口一番「お前、死ね」と。
満員・離れ離れ・東京慣れずで不安な俺を放って、あんな中で悠長にメール打ってんじゃねーよ、せめてアイコンタクトしろ、と罵倒してくる。
ああいう場面では、中途半端な親切心が失敗を招くこと多々あり。開き直りが大事なんだと諭しながら帰宅する。
さて。帰宅して彼の上京目的の詳細を聞く。
・好きなショップの夏物セールに行く
・朝九時半には店に並ばないと買えない
・独りぼっちは淋しいから一緒に並んでくれ
・もしかしたら、招待状持ってないと店には入れないかも(友人は当然持っている)。
・せっかく来たから日曜の夕方まで付き合え
おお、行ってくれるぜ。
『面倒』の簡単なボキャブラリーが、これほどピタリと適合するか。
わざわざ遠出してきた友人の申し出を、事もなげに断って、さらには悪口の一つでも付加して返す、それでいて良心の呵責を一切感じない。それほどの悪辣さをまだ身につけてはいないので、仕方なく了承し、朝も早いので就寝する。
窓を開けて、パンツ一枚で寝ていたら、寒くて六時前に起床してしまう。長い一日の始まりだ。
相手の無茶に乗じて無茶返しの交渉から始める。もともと夕方からバスケに行く予定だったので、そこは友人を三時間ほど放置する。本来であれば、飲みに行くところを、それは涙を飲んで撤退する。どうだ?
契約成立。六時半からのバスケの支度を八時台に行って、大荷物抱えて、まずは渋谷へ向かう(バスケ道具をコインロッカーへ、また喫茶店で朝食)。
一服した後、目的地の原宿へ。何げに人生で初の下車。店には予定通り九時半到着。…しかし、暑い。そこへ、このタイミングで謀ったかのような驚愕の発言が飛び出す。
「店が開くのは12時」
辛うじて日陰だが、下半身は燦燦と輝く日光の下。二時間半、ここで待てと!
今更どうしようもないので、持ちながら場に相応しくない話を展開する。
前に並ぶ同年代(より若干若いか)の男どもが、アイドル話で盛り上がっている中、株・投資信託・為替市場の現状を解説し「高価な服を買う前に、将来設計をした上での貯金計画をたてろ。その上で余剰資金でファッションを磨き、投資をしろ」
友人曰く「一着一着が高くても、質がいいから気に入れば一生物さ。結果的に安物をたくさん買うのと変わらない。それに年とって金持ってからファッションセンス研こうとしてもうまくいかなくて、中途半端にダサいおっさんになるぞ」
これに返すに「質がいいのは認めるが、一生物を見つけたところで、新たなデザインのものに憧れるのは必然で、流行に敏感にならざるをえない服好きが、結果的にかけた金銭が同じになるという論理は破綻している。それ故に金も貯まらない。服は、生活必需品であるが、あるラインを越えると、消耗品かつ贅沢品という俗人に相応しからぬ物品に分類せざるをえなくなる。それは成功の見えないプロジェクトへの過剰投資になりかねない。また、いくらセンスを研いてそれなりの物を身にまとおうとも、格好良く見えない輩の方が圧倒的に多かろう。装着品はあくまで、人物を栄えさせるものであって、本体がまずければ着飾ったところで、所詮俗悪を越えないだろう。『豈目的を達せずんばあるべからず』、半端にセンスを研くよりはこの精神に則り、まずは肉体を改造する方が望ましかろう。」
これから服を買う友人のテンションを意識的に下げて、その上で友人がどれほどの金を投じるのか。ある種の実験がここに成り立った。
さて、開店まで後五分。
そこまで発言して、のこのこと店になど入るものか!
ある程度の列が出来ている店前から、今まで二時間半も並んでいた奴が場に調和しない日経新聞のみを手に持って、その場から去る。
そして、店の鼻先のベンチで何事もなかったかのように店側を向いて新聞を読み始める。
どうだ、この意外性!
普通、せっかくここまで待ったのだから、いくら興味なくても店には入るだろ。で、あれだけのことを喋っておいて、何か買ったらバカにしてやろう。
そう考えていたであろう友人は、一瞬呆れ返ったものの、後、爆笑。まわりの連中は、珍しそうにこちらを眺めている。「あの男は何をしに来たんだ?」という顔で。
暇つぶしだよ、休日の
そういうことにした。
で、友人のお買い上げ金額、「彼女からの頼まれ物含めて11点、十数万円也」
夏物でそれだけいくか…
どうやら、この勝負、引き分けか。
時間は11時50分。
帰省の度に見ている顔なので、特に陽気になるでもなく、極々普通に合流する姿を見て、彼は言う。
「なんだ、そのテンションの低さは!」
適当にあしらって、終電一つ前の大船行きの電車に乗る。友人は痛みを伴うような満員電車は人生初で、乗り込む前から先程の威勢はまるでなし。
乗車したものの、離れ離れになること止むを得ず。降りる駅の名前は伝えてあるし、仕方がないので、いないものと考えて、メールを打って十分弱。そして下車。
友人は開口一番「お前、死ね」と。
満員・離れ離れ・東京慣れずで不安な俺を放って、あんな中で悠長にメール打ってんじゃねーよ、せめてアイコンタクトしろ、と罵倒してくる。
ああいう場面では、中途半端な親切心が失敗を招くこと多々あり。開き直りが大事なんだと諭しながら帰宅する。
さて。帰宅して彼の上京目的の詳細を聞く。
・好きなショップの夏物セールに行く
・朝九時半には店に並ばないと買えない
・独りぼっちは淋しいから一緒に並んでくれ
・もしかしたら、招待状持ってないと店には入れないかも(友人は当然持っている)。
・せっかく来たから日曜の夕方まで付き合え
おお、行ってくれるぜ。
『面倒』の簡単なボキャブラリーが、これほどピタリと適合するか。
わざわざ遠出してきた友人の申し出を、事もなげに断って、さらには悪口の一つでも付加して返す、それでいて良心の呵責を一切感じない。それほどの悪辣さをまだ身につけてはいないので、仕方なく了承し、朝も早いので就寝する。
窓を開けて、パンツ一枚で寝ていたら、寒くて六時前に起床してしまう。長い一日の始まりだ。
相手の無茶に乗じて無茶返しの交渉から始める。もともと夕方からバスケに行く予定だったので、そこは友人を三時間ほど放置する。本来であれば、飲みに行くところを、それは涙を飲んで撤退する。どうだ?
契約成立。六時半からのバスケの支度を八時台に行って、大荷物抱えて、まずは渋谷へ向かう(バスケ道具をコインロッカーへ、また喫茶店で朝食)。
一服した後、目的地の原宿へ。何げに人生で初の下車。店には予定通り九時半到着。…しかし、暑い。そこへ、このタイミングで謀ったかのような驚愕の発言が飛び出す。
「店が開くのは12時」
辛うじて日陰だが、下半身は燦燦と輝く日光の下。二時間半、ここで待てと!
今更どうしようもないので、持ちながら場に相応しくない話を展開する。
前に並ぶ同年代(より若干若いか)の男どもが、アイドル話で盛り上がっている中、株・投資信託・為替市場の現状を解説し「高価な服を買う前に、将来設計をした上での貯金計画をたてろ。その上で余剰資金でファッションを磨き、投資をしろ」
友人曰く「一着一着が高くても、質がいいから気に入れば一生物さ。結果的に安物をたくさん買うのと変わらない。それに年とって金持ってからファッションセンス研こうとしてもうまくいかなくて、中途半端にダサいおっさんになるぞ」
これに返すに「質がいいのは認めるが、一生物を見つけたところで、新たなデザインのものに憧れるのは必然で、流行に敏感にならざるをえない服好きが、結果的にかけた金銭が同じになるという論理は破綻している。それ故に金も貯まらない。服は、生活必需品であるが、あるラインを越えると、消耗品かつ贅沢品という俗人に相応しからぬ物品に分類せざるをえなくなる。それは成功の見えないプロジェクトへの過剰投資になりかねない。また、いくらセンスを研いてそれなりの物を身にまとおうとも、格好良く見えない輩の方が圧倒的に多かろう。装着品はあくまで、人物を栄えさせるものであって、本体がまずければ着飾ったところで、所詮俗悪を越えないだろう。『豈目的を達せずんばあるべからず』、半端にセンスを研くよりはこの精神に則り、まずは肉体を改造する方が望ましかろう。」
これから服を買う友人のテンションを意識的に下げて、その上で友人がどれほどの金を投じるのか。ある種の実験がここに成り立った。
さて、開店まで後五分。
そこまで発言して、のこのこと店になど入るものか!
ある程度の列が出来ている店前から、今まで二時間半も並んでいた奴が場に調和しない日経新聞のみを手に持って、その場から去る。
そして、店の鼻先のベンチで何事もなかったかのように店側を向いて新聞を読み始める。
どうだ、この意外性!
普通、せっかくここまで待ったのだから、いくら興味なくても店には入るだろ。で、あれだけのことを喋っておいて、何か買ったらバカにしてやろう。
そう考えていたであろう友人は、一瞬呆れ返ったものの、後、爆笑。まわりの連中は、珍しそうにこちらを眺めている。「あの男は何をしに来たんだ?」という顔で。
暇つぶしだよ、休日の
そういうことにした。
で、友人のお買い上げ金額、「彼女からの頼まれ物含めて11点、十数万円也」
夏物でそれだけいくか…
どうやら、この勝負、引き分けか。
by jasum_fjo
| 2007-06-21 21:07
| 平時